「オフィス移転が決まったけど、初期費用をできるだけ抑えたい」「来月にはもう新オフィスで稼働させたい」——そんな切実な課題を抱える企業担当者は少なくありません。
内装工事や什器の手配をゼロから行うと、数百万円単位のコストと数ヶ月の準備期間がかかるのが一般的です。しかし、その負担を大きく軽減できる選択肢があります。それが「セットアップオフィス」です。
この記事では、セットアップオフィスのメリット・デメリットを正直にお伝えしたうえで、トータルコストの比較や物件選びのポイントまで解説します。読み終える頃には、自社にとってセットアップオフィスが最適かどうか、根拠をもって判断できるようになるはずです。
セットアップオフィスとは?通常オフィスや居抜きとの違い
オフィス物件を探していると、「セットアップオフィス」「スケルトン」「居抜き」といった用語が出てきます。まずはそれぞれの違いを整理しておきましょう。
セットアップオフィスの仕組み(内装・家具付き)
セットアップオフィスとは、貸主(オーナー)側があらかじめ内装工事を済ませ、デスク・チェア・収納などの什器も設置した状態で貸し出すオフィスのことです。
入居する企業は、パソコンや書類などを持ち込めば、すぐに業務を開始できます。内装のデザインや家具のグレードは物件によって異なりますが、近年はスタイリッシュなデザインの物件も増えており、来客対応にも十分な品質が確保されているケースが多いです。
イメージとしては、「家具付きマンション」のオフィス版と考えるとわかりやすいでしょう。
スケルトン物件・居抜き物件と比較した決定的な違い
混同されやすい3つのタイプを比較すると、以下のとおりです。
スケルトン物件は、コンクリートがむき出しの何もない状態で引き渡される物件です。内装工事・什器調達をすべて自社で行うため、デザインの自由度は最も高い反面、費用と時間がかかります。
居抜き物件は、前のテナントが使っていた内装や設備がそのまま残った物件です。コストは抑えられますが、前テナントのレイアウトや内装デザインに左右されるため、自社のブランドイメージに合わないことも珍しくありません。
セットアップオフィスは、オーナーが新しく内装・什器を用意している点が居抜きとの決定的な違いです。清潔感のある状態で入居でき、かつスケルトンのような大がかりな工事も不要。コスト・スピード・品質のバランスが取れた選択肢といえます。
セットアップオフィスを導入する5つのメリット
ここからは、セットアップオフィスを選ぶ具体的なメリットを5つに分けて紹介します。
【コスト】初期費用(内装工事費・什器代)を大幅カット
通常のスケルトン物件でオフィスを構える場合、内装工事費だけで坪あたり20万〜40万円ほどかかるのが相場です。20坪のオフィスなら400万〜800万円の出費になります。これにデスクやチェア、パーティションなどの什器代が加わると、初期費用は1,000万円近くに膨らむこともあります。
セットアップオフィスなら、こうした費用がほぼ不要です。浮いた資金を採用や事業投資に回せるのは、特にスタートアップや成長期の企業にとって大きなメリットでしょう。
【スピード】入居までの期間を短縮(最短数週間で稼働)
スケルトン物件で内装工事を行う場合、デザインの打ち合わせから施工完了まで2〜3ヶ月かかるのが一般的です。繁忙期や特殊な設計を伴う場合は、さらに長引くこともあります。
一方、セットアップオフィスは内装・什器がすでに整っているため、契約後すぐに入居準備に取りかかれます。通信環境の手配さえ整えば、最短2〜3週間で業務を開始できるケースも珍しくありません。
急な人員増加やプロジェクト立ち上げなど、スピードが求められる場面では特に心強い選択肢です。
【採用力】ハイグレードなデザインで企業の魅力を向上
オフィスのデザインは、採用面接での第一印象に直結します。近年のセットアップオフィスは、プロのデザイナーが手がけた洗練された空間が多く、自社で内装デザインを発注するよりもコストパフォーマンスが高いケースもあります。
特にIT・クリエイティブ業界では、「このオフィスで働きたい」と感じてもらえるかどうかが採用競争力に影響します。限られた予算でもオフィス環境の質を確保できる点は、見落とされがちですが重要なメリットです。
【退去時】原状回復費用を抑え、次の移転も身軽に
通常のオフィス賃貸では、退去時にスケルトン状態に戻す「原状回復義務」が発生します。この費用は坪あたり5万〜10万円が相場とされ、20坪のオフィスなら100万〜200万円の負担です。
セットアップオフィスの場合、内装や什器はオーナーの資産であるため、テナント側の原状回復費用が軽減されるケースが多いです。ただし、契約ごとに範囲が異なるため、詳細は後述する注意点で確認してください。
退去コストが低いということは、事業環境の変化に応じて機動的に移転できるということでもあります。成長フェーズにある企業にとっては、この「身軽さ」が戦略的な強みになります。
【会計】資産計上の手間が減り、会計処理がシンプルに
自社で内装工事や什器購入を行うと、それらは固定資産として計上し、耐用年数に応じて減価償却する必要があります。管理台帳の作成や税務処理の手間も増えます。
セットアップオフィスなら、内装・什器は賃料に含まれるため、毎月の賃料として経費計上するだけで済みます。経理担当者の負担が減り、バックオフィスのリソースを本業に集中させられる点も、実務上のメリットです。
導入前に知るべきデメリットと注意点
メリットが多いセットアップオフィスですが、当然ながら万能ではありません。導入前に把握しておくべきデメリットを3つお伝えします。
月額賃料の相場は通常より1〜2割高い傾向にある
セットアップオフィスは内装・什器のコストが賃料に上乗せされているため、同じ立地・広さのスケルトン物件と比べると月額賃料が10〜20%ほど高くなる傾向があります。
ただし、「初期費用+月額賃料」のトータルで考えると、利用期間によっては割安になることもあります。単純に月額賃料だけを比較して「高い」と判断するのは早計です。詳しい損益分岐点は次のセクションで解説します。
レイアウトやデザインの自由度が低くカスタマイズしにくい
セットアップオフィスは完成済みの空間を借りる仕組みのため、「壁の位置を変えたい」「オリジナルの受付カウンターを設置したい」といった大幅なカスタマイズは基本的にできません。
自社のブランドカラーやコーポレートアイデンティティを空間に強く反映させたい企業にとっては、物足りなさを感じる可能性があります。物件見学の際に、自社の業務スタイルや来客対応の頻度に合うかどうかを確認しておきましょう。
契約内容による原状回復範囲の違いに注意
メリットの項目で「原状回復費用が軽減される」と紹介しましたが、これはすべてのセットアップオフィスに共通するわけではありません。
契約によっては、テナントが追加した設備や備品について原状回復を求められるケースもあります。契約前に「どの範囲までがオーナー負担か」「追加で何かを設置した場合のルールはどうなるか」を書面で確認することが大切です。
徹底比較|セットアップオフィスがお得になる「損益分岐点」
「結局、セットアップオフィスと通常オフィス、どちらが得なのか?」——この疑問に答えるには、利用期間を軸にしたトータルコストの比較が欠かせません。
「3年以内の短期・中期利用」ならトータルコストで有利
一般的に、セットアップオフィスはスケルトン物件と比べて月額賃料が高い一方、初期費用と退去時の原状回復費用が大幅に低くなります。
この差額を利用期間で割ると、おおむね3年以内の利用であれば、初期費用の節約分が月額賃料の差額を上回り、トータルコストで有利になるケースが多いです。事業の拡大や縮小が見込まれる企業、プロジェクト単位でオフィスが必要な企業にとっては、合理的な選択といえます。
「5年以上の長期利用」なら通常オフィスの方が安くなる可能性
一方、5年以上の長期利用を前提とする場合は、毎月の賃料差額が積み上がり、最終的にはスケルトン物件で内装工事を行った方がトータルコストが安くなる可能性があります。
長期的に拠点を固定する計画がある企業は、初期投資を受け入れてでもスケルトン物件を選んだ方が経済合理性が高い場合があります。
移転にかかる「見えないコスト(担当者の工数)」も考慮すべき
コスト比較では見落とされがちですが、オフィス移転には担当者の工数という「見えないコスト」がかかります。
スケルトン物件の場合、内装デザインの検討、施工業者の選定・見積もり比較、什器の選定・発注、工事の進捗管理など、担当者が数ヶ月にわたって多くの業務を抱えることになります。
セットアップオフィスなら、これらの工程がほぼ省略されるため、担当者は本来の業務に集中できます。この工数削減効果を時給換算すると、数十万円〜百万円規模になることも珍しくありません。コスト比較の際は、この「人件費」も含めて判断することをおすすめします。
失敗しないセットアップオフィスの選び方と判断基準
セットアップオフィスの導入を決めたら、次は物件選びです。後悔しないために、チェックすべきポイントを3つ紹介します。
自社の成長フェーズに合っているか(増床・移転のしやすさ)
成長中の企業にとって、「半年後に人員が倍になるかもしれない」という状況は珍しくありません。そのため、同じビル内で増床できるか、短期間での退去・移転がしやすい契約条件かを事前に確認しておきましょう。
柔軟な契約条件を提示してくれるオーナーや管理会社を選ぶことで、事業環境の変化にスムーズに対応できます。
会議室の数や遮音性は業務内容に適しているか
セットアップオフィスは完成済みの空間のため、会議室の数や大きさを後から変更するのは困難です。
たとえば、クライアントとの打ち合わせが頻繁にある企業なら、会議室の数と遮音性は最優先の確認事項です。逆に、リモートワーク中心でオフィスの出社率が低い企業なら、会議室よりもフリースペースの広さを重視した方がよいかもしれません。自社の働き方に合った間取りかどうかを、内見時にしっかりチェックしましょう。
一部変更可能な「ハーフセットアップ」などの柔軟な選択肢
最近では、内装の一部だけが完成した状態で貸し出す「ハーフセットアップ」と呼ばれるタイプも登場しています。共用部分の内装はオーナーが用意し、執務スペースの一部は自社でカスタマイズできるという仕組みです。
「コストとスピードは重視したいが、最低限のオリジナリティも出したい」という企業にとっては、フルセットアップと通常オフィスの中間に位置するちょうどよい選択肢です。物件探しの際は、このタイプも候補に加えてみてください。
まとめ
セットアップオフィスは、初期費用の大幅削減と入居スピードの速さが最大の強みです。一方で、月額賃料がやや高めになることやカスタマイズの自由度が低い点は、事前に理解しておく必要があります。
選ぶかどうかを判断するうえで、押さえておきたいポイントは以下のとおりです。
- 3年以内の利用ならトータルコストで有利になりやすい
- 5年以上なら通常オフィスの方が割安になる可能性がある
- 初期費用だけでなく、担当者の工数(見えないコスト)も判断材料に含める
- 契約前に原状回復の範囲やカスタマイズの可否を書面で確認する
まずは、自社の利用期間と成長計画を整理したうえで、セットアップオフィスの物件をいくつか内見してみることをおすすめします。実際の空間を見ることで、自社に合うかどうかの判断がぐっと具体的になるはずです。
コストと時間を賢くコントロールしながら、事業に集中できるオフィス環境を手に入れてください。


