オフィスの退去が決まり、いざ原状回復の見積もりを受け取ったら数百万円――。そんな金額を突きつけられ、「これは本当に妥当な額なのか」と不安になる総務・経営担当の方は少なくありません。オフィスの原状回復は住居の賃貸と違って借主の負担が重く、相場が見えにくいのが実情です。この記事では、坪単価から自分で概算を出す方法、見積もりの妥当性を検証する視点、そしてB工事の減額交渉や居抜き退去で数十万〜数百万円を圧縮する手順までを整理します。読み終えるころには、金額の見通しと打てる手を具体的に持てるはずです。
オフィスの原状回復費用の相場|坪単価早見表

まず知りたいのは「うちのオフィスなら、だいたいいくらか」でしょう。オフィスの原状回復費用は坪単価で語られるのが一般的で、規模やビルのグレードによってレンジが変わります。ここでは目安となる坪単価と、坪数別の概算を提示します。
小規模オフィス(10〜50坪未満)の相場:3〜5万円/坪
10坪から50坪未満の小〜中規模オフィスでは、坪単価3〜5万円程度が一つの目安です。内装がシンプルで間仕切りや特殊設備が少ない区画ほど下限に近づきます。たとえば30坪のオフィスなら、3万円/坪で90万円、5万円/坪で150万円という計算になります。まずはこのレンジで自社の概算をつかんでおくと、届いた見積もりが高いか安いかの判断軸ができます。
大規模オフィス(50坪以上)の相場:5〜10万円/坪
50坪を超える規模になると、坪単価は5〜10万円程度まで上がる傾向があります。会議室や役員室の造作、大型の間仕切り、セキュリティ設備などが増え、解体・撤去の工程が複雑になるためです。100坪のオフィスであれば、5万円/坪で500万円、10万円/坪で1,000万円と幅が大きく、内装の作り込み具合で金額が二倍近く変わる点に注意が必要です。
ハイグレードビルは10万円超になることも
都心の大型ビルやハイグレードビルでは、坪単価が10万円を超えるケースもあります。ビル側が指定する工事仕様や使用する資材のグレードが高く、後述するB工事(ビル指定業者による工事)の割合が大きいことが主な理由です。「同じ坪数なのに他社より高い」と感じる背景には、こうしたビルグレードの差があることを押さえておきましょう。
坪数別・費用シミュレーション例
坪単価をもとに概算すると、規模ごとの費用感は次のように整理できます。あくまで目安ですが、予算組みの出発点として活用してください。
| オフィス規模 | 坪単価の目安 | 概算費用 |
|---|---|---|
| 20坪(小規模) | 3〜5万円/坪 | 約60万〜100万円 |
| 40坪(小規模) | 3〜5万円/坪 | 約120万〜200万円 |
| 60坪(大規模) | 5〜10万円/坪 | 約300万〜600万円 |
| 100坪(大規模) | 5〜10万円/坪 | 約500万〜1,000万円 |
金額の幅が広いのは、内装の作り込みやビルの仕様で変動が大きいためです。この段階では「桁感」をつかめれば十分です。
原状回復費用の内訳|何にいくらかかるのか
見積もりの妥当性を判断するには、総額だけでなく「何にいくらかかっているのか」を分解して見る必要があります。一式でまとめられた見積もりは中身が見えず、割高になりやすいものです。主な内訳を項目ごとに確認しましょう。
内装・間仕切りの解体撤去
会議室や役員室を仕切っていたパーティション、造作壁、什器の撤去にかかる費用です。オフィスの原状回復では比重の大きい項目で、間仕切りが多い区画ほど高くなります。入居時に自社で設けた造作は、原則として借主負担で撤去することになります。
床・壁・天井クロスの復旧
タイルカーペットの張り替え、壁・天井クロスの貼り替え、塗装の復旧などが含まれます。面積に比例して費用が積み上がるため、坪単価に最も影響しやすい項目です。全面張り替えか部分補修かで金額が変わるので、範囲の妥当性を確認したいポイントです。
電気・空調・給排水などの設備撤去
入居時に増設した照明・コンセント、追加した空調機、給湯室の給排水設備などの撤去・復旧費です。専門工事が絡むため単価が高くなりやすく、後述するB工事に区分されることが多い領域でもあります。
クリーニング・産廃処分費
解体で発生した廃材の処分費と、引き渡し前の清掃費です。産業廃棄物の処分費は数量に応じて変動し、まとめて「一式」とされている場合は内訳の開示を求めると数量の根拠が見えてきます。
そもそも原状回復とは?借主負担の範囲を確認
相場と内訳を押さえたら、次は「どこまでが借主の負担なのか」という前提を確認します。ここを理解しておくと、過剰な請求に気づける可能性が高まります。
オフィスと住居で負担範囲が違う理由
住居の賃貸では、通常の使用による損耗(通常損耗)や経年劣化は貸主負担とされ、借主の負担は限定的です。一方でオフィスなどの事業用物件は、契約で「借主が入居時の状態に戻す」と定められることが多く、通常損耗まで借主負担となるのが一般的です。同じ「原状回復」でも負担の重さが大きく異なるため、住居の感覚で見積もると想定より高く感じます。
通常損耗・経年劣化はどこまで借主負担か
オフィスであっても、負担範囲は最終的に契約書の記載で決まります。契約に特約がなければ、通常損耗や経年劣化の扱いで交渉の余地が生まれることもあります。「オフィスだから全部借主負担」と早合点せず、まずは自社の契約条件を確認することが第一歩です。
国交省ガイドラインと契約書の特約の確認ポイント
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、主に住居を対象とした考え方を示すものですが、通常損耗と借主の善管注意義務違反を区別する基本的な視点は事業用物件を考えるうえでも参考になります。実務では契約書の特約が優先されるため、退去前に「原状回復の範囲」「工事業者の指定」「通常損耗の扱い」の3点を契約書で確認しておくと、見積もりの前提を把握できます。
相場より高く請求される理由とB工事・C工事の違い
「概算より見積もりがかなり高い」と感じたら、工事区分の仕組みを疑ってみる価値があります。オフィスの工事はA・B・Cの3区分に分かれ、この区分が金額を左右する大きな要因になります。
A工事・B工事・C工事とは
ざっくり整理すると、次のような区分になります。
- A工事:ビル本体に関わる工事。費用負担も業者選定もビル(貸主)側。
- B工事:借主の希望による工事だが、ビル指定の業者が施工し、費用は借主負担。
- C工事:借主が発注・費用負担し、業者も借主が選べる工事。
原状回復で問題になりやすいのはB工事です。費用は借主が払うのに業者を選べないため、価格競争が働きにくい構造になっています。
B工事(ビル指定業者)が割高になりやすい構造
B工事は、施工業者がビル側の指定で固定されるため、借主が相見積もりを取って安い業者に切り替えることができません。競争原理が働かないぶん単価が高止まりしやすく、これが「相場より高い」と感じる典型的な原因です。空調や電気など専門性の高い工事ほどB工事に区分されやすく、金額のインパクトも大きくなります。
見積もりが適正か見抜くチェックポイント
言い値をそのまま受け入れる必要はありません。次の点を確認するだけでも、妥当性の判断材料が増えます。
- 「一式」表記が多くないか(数量・単価の内訳が示されているか)
- 各工事がA・B・Cのどれに区分されているか
- B工事の範囲が本当にビル指定でなければならない工事に限られているか
- 自社契約にない過剰な仕様(グレードの高い資材など)が含まれていないか
内訳が不透明なまま総額だけ大きい見積もりは、開示を求めて精査する余地があります。
原状回復費用を抑える方法
相場と構造を理解したら、いよいよ費用を圧縮する具体策です。「ビル指定だから交渉できない」と諦める前に、打てる手を順に見ていきましょう。
B工事でも金額根拠の開示請求・減額交渉はできる
B工事は業者を選べませんが、金額をそのまま受け入れなければならないわけではありません。数量・単価の内訳開示を求め、根拠が薄い項目や過剰な仕様を指摘することで、減額に応じてもらえるケースがあります。面倒に感じるかもしれませんが、内訳を一つずつ確認して質問するだけでも交渉の入り口になります。感情的にならず、事実ベースで根拠を尋ねる姿勢が有効です。
第三者の原状回復コスト削減チェックを活用する
自社だけで見積もりの妥当性を判断するのが難しい場合は、原状回復に詳しい第三者にチェックを依頼する方法があります。工事区分の妥当性や単価の相場観を客観的に確認してもらうことで、交渉の根拠を得やすくなります。初めての退去で判断に自信が持てないときこそ、専門的な視点を借りるのが近道です。
居抜き退去(造作譲渡)で費用をゼロに近づける
もっとも効果が大きいのが、居抜きでの退去です。次に入居する企業へ内装や設備をそのまま引き継ぐ(造作譲渡)ことができれば、解体・撤去そのものが不要になり、原状回復費用を大きく圧縮できます。条件が整えば費用を実質ゼロに近づけられるうえ、造作を譲渡することで収入が生じるケースもあります。貸主やビルの承諾、次の借り手とのマッチングが前提になりますが、退去コストを根本から下げる選択肢として検討する価値は十分にあります。
見落としがちな工事期間と賃料の二重発生リスク
費用の話に集中していると見落としがちなのが、工事期間中の賃料です。原状回復は退去日までに完了させる必要があり、スケジュール管理を誤ると余計な賃料が発生します。
原状回復工事の一般的な期間の目安
工事期間は規模によりますが、小規模オフィスで数日〜1週間程度、大規模になると2週間以上かかることもあります。ビル指定業者との日程調整や、休日・夜間工事の制約が入ると、さらに余裕を見ておく必要があります。
退去日から逆算したスケジュールの立て方
契約上、原状回復を終えて引き渡すまで賃料が発生し続けるのが一般的です。工事完了が退去日に間に合わないと、旧オフィスと新オフィスの賃料が二重に発生しかねません。退去日から工事期間を逆算し、見積もり取得・業者調整・工事着手の各期日を早めに押さえておくことが、無駄な出費を防ぐ鍵になります。
移転先も居抜きオフィスで内装費まで最適化する
退去時のコストに目が向きがちですが、移転はコスト全体を見直す好機でもあります。新しいオフィスをゼロから内装すると、デザイン・工事・什器で相応の初期費用がかかります。ここで居抜きオフィスを選べば、前テナントの内装や設備を活かせるため、内装工事費を抑えて初期投資を圧縮できます。退去側の居抜き退去と、入居側の居抜き活用は表裏の関係にあり、両方を意識することで移転のトータルコストを最適化できます。物件の探し方次第で、退去と入居の双方でコストを削れる余地が生まれます。
よくある質問
この記事に関してよく寄せられる質問をまとめました。
オフィスの原状回復費用の坪単価はいくらですか?
小〜中規模オフィス(10〜50坪未満)で3〜5万円/坪、50坪以上の大規模オフィスで5〜10万円/坪が一つの目安です。都心のハイグレードビルでは10万円/坪を超えることもあります。ビルのグレードや内装の作り込みで幅が大きくなります。
見積もりが相場より高い気がします。交渉できますか?
できます。まず数量・単価の内訳開示を求め、「一式」表記の中身や工事区分(A・B・C)を確認しましょう。特にB工事は業者を選べず割高になりやすいため、金額根拠を尋ねて過剰な仕様を指摘することで、減額に応じてもらえるケースがあります。
B工事はビル指定なので、金額を下げるのは無理ですか?
業者は選べませんが、金額をそのまま受け入れる必要はありません。内訳の根拠を確認し、本当にビル指定が必要な工事か、資材グレードが過剰でないかを精査すると交渉の余地が見えてきます。第三者のチェックを活用すると根拠を得やすくなります。
居抜き退去にすると本当に費用は下がりますか?
次に入居する企業へ内装や設備を引き継げれば、解体・撤去が不要になり原状回復費用を大きく圧縮できます。条件が整えば実質ゼロに近づき、造作譲渡で収入が生じる場合もあります。ただし貸主の承諾や次の借り手とのマッチングが前提になります。
原状回復の工事期間はどのくらい見ておくべきですか?
小規模で数日〜1週間、大規模で2週間以上が目安です。退去日までに引き渡しを終える必要があり、間に合わないと旧・新オフィスの賃料が二重に発生します。退去日から逆算し、見積もり取得や業者調整の期日を早めに押さえましょう。
まとめ|相場把握・適正性検証・コスト削減で賢く退去する
オフィスの原状回復は、相場が見えにくく金額の不安が大きい領域です。しかし、坪単価から概算を出し、内訳を分解し、工事区分の仕組みを理解すれば、見積もりの妥当性は自分で判断できるようになります。要点を整理します。
- 坪単価の目安は小規模で3〜5万円、大規模で5〜10万円。まず概算で桁感をつかむ
- 見積もりは「一式」に頼らず、内訳と工事区分(A・B・C)で妥当性を検証する
- B工事は割高になりやすいが、根拠開示と減額交渉で下げられる余地がある
- 居抜き退去(造作譲渡)なら費用を大きく圧縮でき、実質ゼロに近づけられる
- 工事期間を退去日から逆算し、賃料の二重発生を防ぐ
初めての退去でも、順を追って確認すれば必要以上に払いすぎることは避けられます。まずは自社の契約書と概算金額を確認し、居抜き退去や移転先の居抜き活用まで視野に入れて、退去と移転のコストを一緒に見直してみてください。数字の見通しと選択肢を持てれば、退去交渉はぐっと有利になります。


