気になる居抜きオフィスを見つけたものの、「造作譲渡料300万円」と提示されて手が止まっていませんか。この金額が妥当なのか、契約書に何を書けばいいのか、経理はどう処理するのか。造作譲渡は不動産・法務・会計の3つが絡むため、社内に前例がないと判断に迷いやすいテーマです。この記事では、造作譲渡料の相場と決まり方、契約書に必須の記載事項、売り手・買い手それぞれの会計処理、原状回復義務との関係、そして実際に起きやすいトラブルと回避策までを順に整理します。読み終える頃には、交渉のテーブルで何を確認し、どこで線を引けばよいかが見えるはずです。
造作譲渡とは?居抜きとの違いをまず整理

造作譲渡とは、前の借主が室内に設置した内装や設備を、次の借主が買い取ることをいいます。まずは「何が対象になるのか」と「居抜きという言葉との関係」を押さえておきましょう。ここを曖昧にしたまま話を進めると、後の契約書作成でつまずきます。
造作譲渡の意味と対象になるもの
造作(ぞうさく)とは、建物に付加された内装・設備のうち、取り外すと価値が落ちるもの、あるいは建物と一体化しているものを指します。オフィスであれば、間仕切り壁、天井・床の仕上げ、造作カウンター、電気・LAN配線、空調の増設分、給湯設備などが典型です。
これに加えて、実務では机・椅子・複合機・会議用モニターといった動産(什器備品)もまとめて売買されることが多く、これらを含めて「造作譲渡」と呼ぶケースが一般的です。ただし、法律上も会計上も造作(内装設備)と動産(什器備品)は別物として扱われます。契約書と譲渡対象リストでは、両者を分けて記載しておくのが後々のトラブル防止につながります。
なお、造作譲渡の当事者は原則として前借主と新借主であり、貸主(ビルオーナー)ではありません。物件の賃貸借契約とは別に、借主同士で結ぶ売買契約という位置づけになります。
「居抜き」との違い(契約形態としての位置づけ)
「居抜き」は、内装や設備が残った状態のまま物件を引き継ぐ取引の形態を指す言葉です。対して造作譲渡は、その居抜き取引を成立させるために結ぶ個別の売買契約を指します。つまり、居抜きという大きな枠組みの中に造作譲渡契約がある、という関係です。
実際の居抜き入居では、①貸主との賃貸借契約、②前借主との造作譲渡契約、という2本の契約を並行して進めます。この2本は連動しており、片方が流れればもう片方も意味を失います。契約書に「賃貸借契約が締結されない場合は本契約を白紙解除できる」といった条項を入れておくのはこのためです。居抜きオフィスの基本的な仕組みの解説もあわせて読むと、全体像がつかみやすくなります。
造作譲渡料の相場はいくら?決まり方と変動要因
造作譲渡料に公定価格はなく、当事者同士の交渉で決まります。とはいえ相場観がまったくない状態では交渉できないため、目安と価格を動かす要因を押さえておきましょう。
業態・規模別の相場目安
オフィスの造作譲渡は、坪単価に置き換えて考えると比較しやすくなります。以下は東京都心部での一般的な目安です。
| 物件タイプ | 造作譲渡料の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 小規模オフィス(〜30坪) | 0円〜150万円 | 什器込みでも0円提示が珍しくない |
| 中規模オフィス(30〜100坪) | 0円〜500万円 | 坪1〜5万円程度に収まることが多い |
| 大規模・高グレード内装 | 500万円〜数千万円 | 専用設備や特殊造作がある場合 |
| 飲食・店舗系 | 100万〜500万円程度 | 厨房設備の残存価値が価格を押し上げる |
ここで意外に思われるのが、オフィスの造作譲渡料は0円になるケースが相当数あるという点です。前借主にとっては、造作を撤去して原状回復するのに数百万円かかります。そのまま引き継いでもらえれば、その支出をまるごと回避できる。だから「無償でいいので置いていかせてほしい」という交渉が成立するわけです。譲渡料を払う側だけが得をする取引ではない、という構造を理解しておくと交渉に余裕が生まれます。
造作譲渡料は初期費用の一部にすぎません。保証金・仲介手数料・追加工事費まで含めた全体像は、居抜きオフィスの初期費用相場全体の解説で確認しておくと、予算の組み方を間違えずに済みます。
相場を左右する変動要因(立地・設備の残存年数・繁盛度など)
提示額が妥当かを判断するには、次の要素を一つずつ照らし合わせます。
- 設備の経過年数と状態:空調・照明・OAフロアは設置から何年経っているか。10年を超えていれば残存価値はほぼゼロに近く、むしろ更新費用のリスク側に傾きます。
- そのまま使えるレイアウトか:自社の人員構成に合わない会議室配置であれば、結局壊すことになります。壊す前提の造作に対価を払う必要はありません。
- 前借主の退去事情:退去期限が迫っているほど、譲渡料は下がります。時間がない側が譲歩するのが実務の常です。
- 立地と物件の希少性:好立地で競合が多い物件は、譲渡料を値切ると他社に決まってしまうリスクがあります。
- 原状回復義務の免除とセットか:前借主の原状回復義務が新借主に引き継がれる条件なら、その分は譲渡料から差し引かれるべきです。
交渉の際は「高い・安い」ではなく、ゼロから内装工事をした場合の見積もりと比較するのが最も説得力のある材料になります。オフィス内装工事は坪25万〜50万円程度かかるのが一般的なので、100坪で造作譲渡料500万円なら、坪5万円で内装を手に入れる計算です。この比較を提示すれば、社内稟議も通しやすくなります。
造作譲渡契約書に必須の記載事項
造作譲渡は借主同士の私的な売買契約であり、決まった書式はありません。だからこそ記載漏れが起きやすく、後日の紛争の火種になります。最低限、以下の項目は必ず盛り込んでください。
契約書に盛り込むべき項目チェックリスト
- 譲渡対象物の明細:別紙の物件目録に、品目・型番・数量・設置場所まで記載する。「室内の内装設備一式」だけで済ませない。
- 譲渡代金と支払時期:総額、消費税の内訳、手付金と残代金の支払日、支払方法。
- 引渡しの時期と方法:鍵の引渡日、立会いの有無、引渡し時点での状態確認の方法。
- 危険負担の移転時期:引渡し前に設備が壊れた場合、どちらが負担するか。
- 契約不適合責任の範囲と期間:後述しますが、ここが最も揉めます。免責とするのか、期間を区切って負うのか。
- 貸主の承諾に関する条項:貸主の書面による承諾が得られない場合の取扱い。
- 賃貸借契約との連動条項:新借主が貸主と賃貸借契約を締結できない場合、本契約は失効し支払済み金銭を返還する旨。
- 原状回復義務の帰属:既存造作の原状回復義務を誰が負うのかを明記する。
- 造作買取請求権の放棄:借地借家法第33条に基づく買取請求権を行使しない旨を確認する。
特に重要なのが、最後の2項目です。ここが空欄のまま契約すると、数年後の自社の退去時に想定外の費用が発生します。
契約書テンプレート活用時の注意点
インターネット上で入手できる造作譲渡契約書のひな形は、その多くが飲食店・店舗を想定したものです。厨房設備や営業許可の引継ぎを前提とした条文が入っている一方、オフィスで重要になるOAフロア配線やLAN設備、セキュリティ機器の扱いは想定されていません。そのまま流用すると、肝心な部分が抜け落ちます。
ひな形はあくまで骨組みとして使い、①譲渡対象の物件目録、②契約不適合責任、③原状回復義務の帰属、この3点は自社の状況に合わせて必ず書き換えてください。金額が数百万円規模になる場合や、原状回復の取り決めが複雑な場合は、弁護士のリーガルチェックを入れる価値は十分にあります。数万円のチェック費用で、数百万円のリスクを潰せる計算です。
造作譲渡の会計処理|資産計上と減価償却の考え方
造作譲渡は「資産の売買」なので、売り手と買い手で処理がまったく異なります。経理担当者から質問される前に、押さえるべき論点を整理しておきましょう。
売り手側の処理(売却損益・消費税の扱い)
売り手(前借主)は、譲渡した造作の帳簿価額を資産から除却し、譲渡代金との差額を固定資産売却益または固定資産売却損として計上します。たとえば帳簿価額200万円の内装を300万円で譲渡すれば、差額100万円が固定資産売却益です。逆に帳簿価額500万円のものを300万円で譲渡すれば、200万円の売却損となります。
消費税については、造作譲渡は課税資産の譲渡等に該当するため消費税の課税対象です。交渉時に「300万円」と言われた場合、それが税込か税抜かで33万円の差が出ます。契約書では必ず税抜金額と消費税額を分けて記載してください。また、買い手が仕入税額控除を受けるには売り手のインボイス(適格請求書)が必要なので、売り手が適格請求書発行事業者かどうかも事前に確認しておきます。
なお、造作を無償譲渡(0円)とする場合でも、時価との差額が寄附金や受贈益と認定されるリスクがゼロではありません。金額が大きい案件では、0円とする合理的な理由(撤去費用の回避というメリットがあること)を議事録や覚書に残しておくと安心です。
買い手側の処理(勘定科目別の資産計上)
買い手(新借主)は、譲り受けたものを一括で費用処理することはできません。原則として資産計上し、減価償却を通じて費用化していきます。ポイントは、譲渡対象を性質ごとに区分することです。
| 対象 | 勘定科目 | 考え方 |
|---|---|---|
| 間仕切り、内装仕上げ、造作カウンター | 建物(建物附属設備) | 賃借物件への造作として資産計上 |
| 空調、電気・給排水設備 | 建物附属設備 | 設備の種類ごとに耐用年数を判定 |
| 机・椅子・キャビネット・複合機 | 器具備品 | 単価30万円未満なら特例適用の余地あり |
| 契約書作成費用、仲介手数料 | 取得価額に算入 | 資産の取得に直接要した費用 |
区分の実務上の要は、契約書の物件目録に内訳金額を記載しておくことです。「造作譲渡料一式300万円」としか書かれていないと、器具備品として短期償却できるはずのものまで建物附属設備に含めて長期償却するはめになり、税務メリットを取り逃がします。交渉段階から経理部門を巻き込み、内訳を出してもらうよう売り手に依頼しておきましょう。
なお、中小企業者等であれば、取得価額30万円未満の器具備品は少額減価償却資産の特例により年間300万円まで一括損金算入が可能です(適用期限あり)。什器類の内訳を明確にする実利はここにあります。
減価償却の耐用年数の考え方
他人(貸主)から賃借している建物に対して行った造作は、その造作の種類・用途・使用材質等を勘案して合理的に見積もった年数で償却するのが原則です。ただし、賃借期間が定められていて更新ができず、かつ造作の買取請求もできない契約であれば、その賃借期間を耐用年数とすることが認められています。定期借家契約のオフィスではこちらが使えるケースがあります。
また、譲り受ける造作は中古資産にあたるため、中古資産の簡便法による耐用年数の見積りも選択肢になります。法定耐用年数の全部を経過している場合は「法定耐用年数×20%」、一部経過の場合は「(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×20%」で計算し、2年未満は2年とします。前借主から設置時期の資料をもらっておくと、この計算ができて償却期間を短縮できます。契約時に「設備の設置年月がわかる資料一式」を引渡書類に含めるよう依頼しておくと、後の処理がぐっと楽になります。
最終的な判断は個々の契約条件や設備内容によって変わるため、金額が大きい案件では顧問税理士への事前確認をおすすめします。
造作譲渡と原状回復義務の関係
造作譲渡を検討するうえで、コスト面のインパクトが最も大きいのがこの論点です。譲渡料の数百万円よりも、原状回復義務の取り決めのほうが金額的に重いことも珍しくありません。
原状回復義務は誰が負うのか
オフィスの賃貸借契約では、借主が退去時に室内を入居時の状態(多くはスケルトンまたは貸主指定の基準状態)に戻す義務を負うのが一般的です。ここで注意したいのが、居抜きで入居した場合、前借主が造った造作の原状回復義務まで新借主が引き継ぐ契約になっていることが多いという点です。
つまり、自分が一切手を加えていない間仕切りや配線であっても、退去時には自社の費用で撤去しなければならない可能性があります。契約書上で「原状回復の基準時点をどこに置くか」を確認し、可能であれば「引渡時の現況で返還すれば足りる(現状有姿での返還)」という合意を貸主から取り付けておくことが、将来の数百万円を左右します。義務の法的な位置づけについては、原状回復義務の法的根拠を整理した解説で背景を押さえておくと交渉しやすくなります。
造作譲渡によって原状回復コストが軽減される仕組み
造作譲渡が経済的に成立するのは、原状回復コストという「双方にとっての損失」を消せるからです。構図はシンプルです。
- 前借主は、本来なら坪5万〜15万円程度かかる原状回復工事を回避できる。100坪なら500万〜1,500万円の支出がなくなる。
- 新借主は、坪25万〜50万円かかる内装工事をせずに入居でき、工事期間中の二重賃料も発生しない。
- 貸主は、空室期間が短くなり賃料収入の途切れを防げる。
三者すべてに利得があるからこそ、造作譲渡料が0円やごく低額でも取引が成立します。セットアップオフィス(貸主側が内装を用意して貸し出す形態)も同じ発想の延長線上にあり、こちらは造作の所有権が貸主にあるため、退去時の原状回復義務が軽い契約になっていることが多いのが特徴です。初期費用と退去費用の両方を抑えたいなら、居抜きとセットアップの両方を候補に入れて比較検討する価値があります。
造作譲渡でよくあるトラブルと回避策
造作譲渡は当事者が3者(貸主・前借主・新借主)にまたがるため、認識のズレが起きやすい取引です。頻出する2つのパターンと、その防ぎ方を押さえておきましょう。
貸主・前借主に造作譲渡を拒否された場合
借主同士で合意していても、貸主が造作の残置を認めなければ取引は成立しません。貸主が難色を示す理由は、①次の借主が決まらなかったときに撤去費用を負担するリスク、②設備の老朽化による修繕責任の所在が不明確になること、が中心です。
この場合の打ち手は、貸主の懸念を条項で潰すことです。「残置造作の修繕・更新は新借主の負担とする」「退去時は貸主の指定する基準で原状回復する」といった一文を賃貸借契約の覚書に入れれば、承諾が得られるケースは少なくありません。逆に、貸主の書面承諾を取らないまま造作譲渡代金を支払ってしまうのが最悪のパターンです。代金の支払いは、必ず貸主の承諾書と賃貸借契約の締結を確認してから行ってください。
契約不適合責任をめぐるトラブル
入居後に「空調が効かない」「配線が想定と違った」と判明し、修理費を誰が持つかで揉めるのが典型例です。中古設備の売買である以上、故障リスクはゼロにできません。だからこそ、契約書で責任の所在を先に決めておきます。
実務では、売り手が「現状有姿での引渡しとし、契約不適合責任を負わない」と定めることが多くあります。買い手としてはこれを鵜呑みにせず、次の2点で守りを固めてください。
- 引渡し前の実地確認:空調の稼働、コンセント・LANの通電、給湯設備の動作を、可能なら専門業者を同行させてチェックする。費用は数万円でも、後の数十万円を防げます。
- 期間を区切った責任負担の交渉:全面免責ではなく「引渡しから3か月間、主要設備の故障については売り手が負担する」といった限定的な条項に落とし込む。
初めての居抜き契約で不安を感じるのは自然なことです。多くの企業が仲介会社のサポートを受けながら進めていますので、判断に迷う条項があれば遠慮なく確認しましょう。契約全体で気をつけるべき点は居抜きオフィスの契約トラブルを防ぐポイントにまとまっています。
よくある質問
この記事に関してよく寄せられる質問をまとめました。
造作譲渡料は値引き交渉できますか?
できます。むしろ交渉が前提の取引です。有効な材料は「設備の経過年数」「使わない造作の撤去費用」「前借主の退去期限」の3つです。特に、自社では使わない造作の撤去見積もりを提示して、その分を譲渡料から差し引く交渉は通りやすい傾向にあります。
造作譲渡料は経費として一括で落とせますか?
原則としてできません。取得した造作は資産計上し、減価償却で費用化します。ただし、単価30万円未満の器具備品は中小企業者等の少額減価償却資産の特例で一括損金算入できる場合があるため、契約書に内訳金額を記載しておくことが重要です。
造作譲渡料が0円の物件は、何か問題があるのでしょうか?
0円だから欠陥がある、とは限りません。前借主にとって原状回復費用の回避というメリットがあるため、オフィスでは0円提示が普通に起こります。確認すべきは価格ではなく、設備の状態、原状回復義務の引継ぎ範囲、そして貸主の承諾が得られているかどうかです。
造作買取請求権とは何ですか?行使できますか?
借地借家法第33条に基づき、貸主の同意を得て設置した造作を、退去時に貸主へ時価で買い取るよう請求できる権利です。ただし実務では、賃貸借契約書で明示的に排除されているのがほとんどで、実際に行使できるケースは限られます。自社の契約書の該当条項を確認しておきましょう。
造作譲渡契約はいつ結ぶのが正しいですか?
貸主から賃貸借契約の内諾を得た後、賃貸借契約の締結と同時期に結ぶのが安全です。先に造作譲渡契約だけを結ぶと、賃貸借契約が不調に終わったときに支払済み代金の回収で揉めます。白紙解除条項を必ず入れてください。
まとめ
造作譲渡は、譲渡料の金額そのものよりも、契約条件の設計で最終的なコストが決まる取引です。相場を知って交渉し、契約書で責任範囲を明確にし、会計処理で税務メリットを取りこぼさない。この3点が揃って初めて、居抜き入居のコストメリットが実額として残ります。
- オフィスの造作譲渡料は0円〜坪5万円程度が目安。0円提示は珍しくない
- 妥当性の判断基準は、ゼロから内装工事した場合の見積もり(坪25万〜50万円)との比較
- 契約書では「物件目録の内訳」「契約不適合責任」「原状回復義務の帰属」の3点を必ず詰める
- 買い手は資産計上が原則。内訳を分けることで器具備品の短期償却や少額特例が使える
- 支払いは、貸主の書面承諾と賃貸借契約の締結を確認してから行う
次のアクションとして、検討中の物件があれば、まず前借主に「譲渡対象の内訳リストと設備の設置年月がわかる資料」を依頼してみてください。この一手だけで、価格の妥当性判断と会計処理の両方が一気に進みます。造作譲渡は前例がないと身構えてしまいがちですが、確認すべき項目は決まっています。一つずつ潰していけば、内装費と原状回復費の両面で大きな削減が実現できるはずです。


