「初期費用を抑えて、早く移転したい」という企業にとって、居抜き物件は非常に魅力的な選択肢です。しかし、その「安さ」や「手軽さ」の裏には、設備故障や原状回復をめぐる深刻なトラブルが潜んでいることも少なくありません。
入居直後にエアコンが止まった、退去時に前テナントの分の原状回復費を請求された、設備だと思っていたものが実はリース品だった——こうした事態は、事前の確認と契約の工夫で防げるものがほとんどです。
本記事では、居抜き物件でよく起きるトラブルの正体と、それを未然に防ぐための内覧チェックポイント・契約上の対策を具体的に解説します。居抜きのメリットだけを賢く享受するための実践ガイドとして、ぜひ最後までお読みください。
居抜き物件でよくある「3大トラブル」と2026年の傾向

居抜き物件に関するトラブルは大きく3つのパターンに分類できます。それぞれの発生メカニズムを理解することが、回避策の第一歩です。
1. 設備の故障:入居直後のエアコン停止と修繕費負担の罠
居抜き物件のトラブルで最も多いのが、空調設備の故障です。入居から数週間〜数ヶ月で業務用エアコンが停止し、修繕費の請求をめぐってオーナーとトラブルになるケースが後を絶ちません。
業務用エアコンは1台の修繕費が数十万円、交換となると100万円以上になる場合もあります。「入居した時点で使えていたのだから、壊れたら自分たちの責任」とするオーナーの主張と、「入居時点ですでに老朽化していたのだからオーナーが修繕すべき」とするテナントの主張が対立し、修繕費の負担が確定するまで猛暑・極寒の中で業務を続けざるを得ない状況に陥ることがあります。
2026年現在、建設・設備工事の人件費・材料費の高騰により、修繕・交換コストは5年前と比べて20〜30%程度上昇しているとされます。故障した場合の修繕費が高額になりやすい今、設備の事前確認はかつてないほど重要です。
2. 原状回復の継承:退去時に「前テナントの分」まで請求されるリスク
居抜き物件では、前テナントが退去時に本来行うべき原状回復工事をせずに内装・設備を残している状態です。問題は、この「原状回復義務」がどこまで新テナントに引き継がれるかが、契約書の記載や三者(オーナー・前テナント・新テナント)の合意内容によって大きく変わる点です。
最悪のケースでは、自社が退去する際に「入居時から存在していた設備・内装の撤去費用」まで請求されることがあります。前テナントが10年かけて作り上げた複雑なパーテーション工事の撤去費用を、数年しか使っていない自社が全額負担するというケースも実際に起きています。
契約書に「原状回復の範囲は現状引き渡しの状態まで」と明記されていればトラブルを防げますが、曖昧なまま契約を結んでしまうと退去時に初めて問題が顕在化します。
3. 譲渡内容の不備:リース品の混入や「残置物」をめぐるトラブル
居抜き物件に残された設備・什器が「オーナー所有の譲渡品」なのか、「前テナントのリース品」なのかが不明確なまま入居してしまうケースがあります。
たとえば、残されているコピー機が実はリース契約の残存期間があるリース品だったとします。新テナントがそれを使用すると、リース会社から利用料の請求や引き渡し要求が届くことがあります。リース品は表面からわかりにくく、内見時に見逃しやすいため注意が必要です。
また、前テナントが「残置物(撤去義務がある物)」として処分予定だった什器が、契約上は「譲渡品」として扱われており、後から撤去・廃棄を求められるケースもあります。何が「譲渡」で何が「残置物」かを事前に明確にしておくことが不可欠です。
責任の所在はどこ?トラブル発生時のルールと判断基準
トラブルが発生したとき、費用負担や責任の所在をどう判断すればよいのか——法律と契約の観点から整理します。
「現況有姿」と「契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)」の違い
居抜き物件の契約書には「現況有姿にて引き渡す」という文言が入ることがよくあります。これは「今の状態のまま引き渡します。欠陥があっても責任は負いません」という意味で、オーナーにとって有利な条項です。
一方、民法に定められた「契約不適合責任」(旧・瑕疵担保責任)では、売買・賃貸借の目的物が契約の内容に適合しない場合、引き渡し後も一定期間は売主・貸主が責任を負います。ただし、「現況有姿」の特約と契約不適合責任の関係は解釈が難しく、争いになるケースもあります。
重要なのは「現況有姿の特約があるから一切交渉できない」ということではなく、入居前に不具合が確認できた箇所については、修繕や賃料減額を交渉するか、自社の免責条件として書面に残すことです。
修繕費を払うのは誰?オーナー・前テナント・自社の区分け
居抜き物件における修繕費の負担区分は、一般的に以下の考え方が基準となります。
・オーナー負担となりやすいケース:建物の構造・設備の経年劣化による故障(入居前から潜在していた欠陥)、天災による損傷、共用設備の不具合
・テナント負担となりやすいケース:テナント自身の使用による消耗・損傷、テナントが行った改変によって生じた故障
・前テナントが負うべきケース:前テナントが使用中に生じた損傷・劣化で、原状回復義務として残されているもの
この区分けを契約書や覚書で明確にしておかないと、実際に問題が起きた際に「誰が払うか」で紛争になります。入居前の設備の状態を写真・動画で記録し、関係者間で共有しておくことが最低限の予防策です。
盲点!前テナントの「近隣クレームや悪評」も引き継ぐリスク
あまり知られていない落とし穴として、前テナントが近隣住民や他テナントとのトラブルを残したまま退去しているケースがあります。たとえば「このフロアはいつも夜遅くまでうるさい」という認識が近隣に根付いていたり、特定の業者とのトラブルを抱えたまま退去していたりする場合、新テナントがその「評判」を引き継いでしまうことがあります。
内見前にビル管理会社に「前テナントの退去理由」や「近隣との関係」について確認しておくことで、こうしたリスクを事前に把握できます。
失敗を防ぐ内覧の鉄則!プロが教える「五感」チェックポイント
居抜き物件の内覧は、スケルトン物件以上に細かいチェックが必要です。「見た目がきれい」という印象で判断してしまうと、入居後に深刻な問題が発覚することがあります。
【鼻・耳・目】で見極める!空調・水回り・配管のサイン
内覧時は以下の五感チェックを実施しましょう。
【空調】実際に稼働させて確認します。異音(コンプレッサーの異音・ガス漏れ音)がないか、冷房・暖房どちらも効くか、風量が十分かを確認してください。製造年はフィルターカバーの内側や本体ラベルで確認できます。製造から10年以上経過している機器は交換時期が近いと考えてください。
【水回り】トイレ・給湯室の水を実際に流して、排水の速さと水漏れの有無を確認します。カビの臭い・下水の臭いは排水管の劣化のサインです。
【壁・天井・床】雨漏り・水漏れの痕跡(茶色いシミ・クロスの浮き)がないかを確認します。特に窓枠周辺と天井の角は要注意です。床のきしみや沈み込みも劣化のサインです。
【照明】すべての照明を点灯させて不点灯がないか確認します。LED化されていない蛍光灯は近い将来の交換コストを見込んでください。
リースラベルを全チェック!所有権の確認を怠らない
残置されている機器に「リースラベル」が貼付されていないかを確認します。コピー機・FAX・サーバー機器・業務用エアコン・自動販売機などはリース契約になっているケースが多いです。
リースラベルが見当たらない場合でも、機器の型番でメーカーや年式を調べ、前テナントかオーナーに「この機器の所有権はどこにあるか」を書面で確認するよう求めましょう。口頭での確認では後から「言った・言わない」の問題になります。
インフラ容量の確認:電気・ネット回線が自社に足りているか
居抜き物件の内装が気に入っても、インフラが自社の業務に合わない場合は入居後に支障が出ます。以下を確認してください。
・電気容量(アンペア数):IT機器・空調・OA機器をすべて稼働させた際に十分か。増設工事が必要な場合はB工事(ビル指定業者施工・テナント負担)になることが多い。 ・インターネット回線:光回線が引き込まれているか。回線速度・プロバイダーの変更は可能か。 ・LAN配線の状態:既存のLANケーブル・ルーターはそのまま使えるか、速度は業務要件を満たすか。 ・電話回線:固定電話番号の引き継ぎが可能か、IP電話への移行は可能か。
契約書に盛り込むべき「自分を守る」ための特約と覚書
内覧でリスクを把握したら、次は契約書・覚書でそのリスクを可視化し、責任範囲を明確にする作業が必要です。
原状回復の範囲を確定させる「三者間合意」の重要性
居抜き物件で最も重要な契約上の手続きが「三者間合意」です。これは、オーナー・前テナント・新テナントの三者が原状回復の範囲と責任分担について合意した文書です。
具体的には「退去時の原状回復義務は、新テナント入居時点の現況(以下に記載する状態)まで戻すことを義務とする」という形で、入居時点の内装・設備の状態を詳細に記録したうえで合意します。三者間合意書がなければ、退去時に「あれは前テナントが作ったものだから新テナントが撤去すべき」という争いに発展するリスクがあります。
この文書の作成を仲介会社やオーナーが面倒がることもありますが、将来のトラブルを防ぐために必ず求めることが重要です。
譲渡品リスト(資産譲渡契約書)と写真付きエビデンスの作成
「どの設備・什器が誰のものか」を明確にするために、譲渡品リストを作成します。オーナーまたは前テナントから引き継ぐ設備・什器をリストアップし、それぞれの状態(動作確認済み・故障中など)と所有権を明記した書面(資産譲渡契約書)を交わします。
リストに加えて、各設備・什器の写真を入居前後で撮影し、日時入りで保存しておくことが重要です。退去時の原状確認や、入居後の故障時の責任区分の証拠として役立ちます。
故障時の保証期間を設定する「魔法の文言」
契約書または覚書に以下のような条項を盛り込むことで、入居後の設備故障トラブルを防げます。
「入居後〇ヶ月以内に既存設備に不具合が生じた場合、修繕費用は甲(オーナー)の負担とする」
この期間は3〜6ヶ月が交渉の目安です。すべての設備について同じ期間を設けるのが難しければ、特に故障リスクが高い空調設備・給排水設備に絞って設定するだけでも効果があります。オーナーが応じない場合は、その分の賃料減額や初期費用の値引きを求めることも一つの選択肢です。
居抜きルークスが提案する「リスクゼロ」の居抜き活用術
プロによる事前査定で「隠れた欠陥」をあぶり出す
内覧チェックポイントを自社で実施することも重要ですが、設備の状態を正確に評価するには専門的な知識が必要です。空調設備の実態(フロン漏れ・コンプレッサーの劣化)や電気設備の容量不足は、専門家でなければ内見で判断することが難しいです。
居抜きルークスでは、物件仲介に加えて設備の事前確認サポートも提供しています。「気になる物件があるが、設備の状態が不安」という段階からご相談いただくことで、隠れた欠陥を入居前にあぶり出し、オーナーへの修繕交渉や契約条件の調整をスムーズに進められます。
居抜き物件のデメリットを補う「部分リノベーション」のすすめ
「気に入った居抜き物件があるが、内装の一部だけが自社のブランドに合わない」という場合は、全面スケルトン工事ではなく部分的なリノベーションが有効です。
たとえば、エントランスとミーティングルームだけを自社仕様に改装し、執務スペースは既存の内装を流用するという選択肢があります。工事範囲を絞ることで費用と工期を最小化しながら、「自社らしいオフィス」に近づけることができます。
居抜きルークスでは、リノベーションの範囲と費用感についての無料相談も受け付けています。「居抜きとリノベーションをどう組み合わせるか」というご相談もお気軽にどうぞ。
まとめ
居抜き物件は、正しく選べばコストと工期の両面で大きなメリットをもたらします。一方で、事前確認と契約上の手当てを怠ると、設備故障・原状回復・リース品トラブルという「3大リスク」にさらされます。本記事のポイントをまとめます。
・3大トラブルは「設備故障」「原状回復の継承」「リース品の混入」。いずれも入居前の確認と契約書の記載で防げる。 ・「現況有姿」の特約があっても、交渉は可能。入居前に不具合が確認できた箇所は修繕・賃料減額を求めることができる。 ・内覧では「五感」を使って空調・水回り・照明・床天井壁を確認し、すべての機器のリースラベルをチェックする。 ・電気容量・ネット回線・LAN配線が自社の業務要件を満たすかも忘れずに確認する。 ・契約書・覚書には「三者間合意(原状回復の範囲)」「資産譲渡リスト(写真付き)」「設備保証期間(3〜6ヶ月)」の3点を必ず盛り込む。 ・不安な場合はプロのサポートを活用し、入居前に隠れた欠陥をあぶり出すことが最大のリスク回避策。
居抜きルークスでは、物件紹介から設備確認・契約交渉のサポートまで一貫してお手伝いしています。「居抜き物件に興味があるが、リスクが心配」という方はぜひお気軽にご相談ください。


