オフィスを定期借家契約で借りていると、「事業計画が変わったので期間の途中で退去したい」という場面が出てきます。結論から言うと、オフィスの定期借家には、居住用のような法律上の中途解約権がありません。途中で解約できるかどうかは、契約書の中途解約条項と、貸主との合意によって決まります。
インターネットで見かける「1か月前に申し入れれば解約できる」という説明は、居住用の建物を前提にした借地借家法のルールです。オフィスにそのまま当てはめると、退去の計画やコストの見積もりを誤るおそれがあります。
この記事では、借地借家法38条や民法の条文に沿って、途中解約の3つのルート、契約書で確認したい項目、条項がない場合の合意解約の進め方、違約金の考え方を順に整理します。法人の総務・管理部門の方が、退去の検討を始める前の確認材料として使える内容を目指しています。
オフィスの定期借家は途中解約できる?

オフィスの定期借家を途中で終わらせる方法は、大きく分けて3つあります。契約書に定めた解約権を使う方法、貸主と話し合って合意する方法、違約金などを支払う前提で契約上の手続きをとる方法です。どのルートがとれるかは、契約書の内容と貸主の意向しだいです。
| ルート | 前提になるもの | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 解約権留保特約による解約 | 契約書に「期間内でも解約できる」旨の条項があること(民法618条) | 予告期間、申入れの方法、解約日までの賃料 |
| 貸主との合意解約 | 貸主が期間途中の終了に同意すること | 退去日、精算の方法、原状回復の範囲を書面で残す |
| 違約金を支払っての解約 | 契約書に途中解約時の違約金や残期間賃料の定めがあること | 金額の計算方法、敷金・保証金との相殺の扱い |
実際には、解約権留保特約に違約金の定めがセットになっている契約や、合意解約の中で違約金の額を話し合う場合もあります。まずは手元の契約書に、どのルートの手がかりが書かれているかを確認するところから始めます。
「1か月前に申し入れれば解約できる」はオフィスには当てはまらない
定期借家の途中解約で知られている「申入れから1か月で終了する」というルールは、居住用の建物に限られた特例です。オフィスや店舗などの事業用の契約には、この特例は適用されません。条文の対象を確認しておくと、居住用向けの情報と混同せずに済みます。
借地借家法38条7項は居住用・200㎡未満が対象
借地借家法38条7項は、居住の用に供する建物で、床面積が200平方メートル未満のものの定期借家に限って、借主からの解約申入れを認めています。建物の一部を借りている場合は、その部分の床面積で判断します。
居住用の場合は、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情で、建物を生活の本拠として使うことが難しくなったときに解約を申し入れられます。この場合、契約は申入れの日から1か月を経過すると終了します。
この規定は、2022年5月18日施行の改正(令和3年法律第37号)で項番号が変わる前は38条5項でした。古い資料で「38条5項」と書かれているものは、現在の38条7項と同じ内容を指しています。いずれにしても対象は居住用の建物で、オフィスとして使う建物は含まれません。
借主に不利な特約は無効という8項の位置づけ
38条8項は、6項(終了通知)と7項(居住用の中途解約)の規定に反する特約で、借主に不利なものを無効としています。居住用の場合は、契約書に「途中解約はできない」と書かれていても、7項の要件を満たせば解約を申し入れられることになります。
一方で、8項が守っているのは6項と7項の内容です。オフィスの契約にはもともと7項の解約権がないため、8項を根拠に途中解約を主張するのは難しいと考えられます。オフィスで途中解約を検討する場合は、法律上の特例ではなく、契約書の条項を出発点にします。
途中解約できるかは契約書で決まる
オフィスの定期借家で途中解約ができるかどうかは、契約書に解約の条項があるかでほぼ決まります。条項がある場合は、その条項に書かれた手順と費用に従うのが基本です。退去を考え始めたら、次の3点を先に確認します。
中途解約条項(解約権留保特約)があるか
中途解約条項とは、契約期間の途中でも当事者が解約できることを定めた条項です。法律上は「解約権の留保」と呼ばれ、民法618条が、期間を定めた賃貸借でも解約する権利を留保できることを定めています。
契約書では「中途解約」「期間内解約」「解約の申入れ」などの見出しで書かれていることが多くあります。借主だけに解約権があるのか、貸主にもあるのかも、あわせて確認しておくと安心です。
解約予告の期間
中途解約条項がある場合、多くは「〇か月前までに書面で通知する」といった予告期間が定められています。この期間は契約ごとに異なるため、一般的な目安ではなく、手元の契約書の定めを確認してください。
予告期間の起算日や、通知の方法(書面、内容証明郵便など)が指定されていることもあります。退去日から逆算して、いつまでに通知を出す必要があるかを早めに把握しておくと、移転のスケジュールが立てやすくなります。
違約金・残期間の賃料の定め
途中解約の条項には、違約金や、残りの契約期間分の賃料の支払いが定められている場合があります。「解約日までの賃料を支払う」のか、「一定期間分の賃料相当額を支払う」のかで、負担は大きく変わります。
敷金・保証金から差し引く定めがあるか、償却の扱いがどうなっているかも確認したい項目です。次の表を、契約書を読むときのチェックリストとして使ってください。
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 中途解約条項 | 期間内の解約を認める条項があるか。借主・貸主のどちらに解約権があるか |
| 予告期間 | 何か月前までに、どの方法で通知するか。起算日はいつか |
| 違約金 | 違約金や残期間賃料の定めがあるか。計算方法と、敷金・保証金との相殺の扱い |
| 転貸・賃借権の譲渡 | 貸主の承諾の要否と手続き。居抜きでの退去や後継テナントへの引き継ぎに関係する |
| 原状回復 | 原状回復の範囲、工事業者の指定の有無、工事期間を退去日までに含めるか |
| 終了通知・契約期間 | 満了日と、貸主からの終了通知の時期。満了が近い場合は途中解約より満了を待つ選択肢も比べる |
中途解約条項がないときは貸主と合意解約を交渉する
契約書に中途解約条項がない場合でも、貸主が同意すれば期間の途中で契約を終えることはできます。これを合意解約といいます。貸主にとっても空室期間や再募集の負担があるため、条件を整理したうえで早めに相談することが大切です。
合意解約の進め方
合意解約は、貸主との話し合いで条件を決めていく手続きです。一般的には次の流れで進めます。
- 契約書を読み、中途解約条項・違約金・転貸・原状回復の定めを確認する
- 希望する退去時期と、その理由を社内で整理する
- 貸主または管理会社に、期間途中で退去したい旨を相談する
- 退去日、退去日までの賃料、違約金の有無、原状回復の範囲などの条件を話し合う
- 合意した内容を合意書などの書面にまとめ、双方で取り交わす
- 合意書に沿って原状回復工事や移転の準備を進め、明け渡す
口頭での合意だけでは、後から条件の認識がずれることがあります。退去日や精算の方法は、書面で残しておくことをおすすめします。条件の判断に迷う場合は、弁護士などの専門家に契約書を見てもらうと安心です。
後継テナントの紹介や居抜きでの退去が交渉材料になる
貸主が途中解約に慎重になる理由の一つは、次の入居者が決まるまで賃料収入が途絶えることです。そのため、後継テナントの候補を紹介できる場合や、内装を残したまま次の入居者に引き継ぐ居抜きでの退去を提案できる場合は、話し合いの材料になることがあります。
ただし、借主が自分の判断で第三者に借りる権利を譲ったり、又貸し(転貸)したりすることはできません。民法612条1項は、賃借権の譲渡や転貸には賃貸人の承諾が必要だと定めています。承諾なく第三者に使用させた場合、同条2項により貸主が契約を解除できるとされています。
居抜きでの退去も、内装や設備を残すことに貸主が同意するかどうかが前提です。後継テナントとの条件は、必ず貸主の承諾を得たうえで進めてください。
途中解約の違約金の考え方
途中解約の違約金は、契約書に定めがあれば、その定めに沿って支払うことが前提になります。民法では、違約金は損害賠償額の予定と推定されます。法人が借主のオフィス契約には消費者契約法の上限ルールが適用されないため、まずは契約書の文言を正確に読むことが重要です。
違約金は損害賠償額の予定と推定される(民法420条)
民法420条1項は、当事者が債務不履行について損害賠償の額をあらかじめ決めておけることを定めています。同条3項は、違約金を「賠償額の予定」と推定するとしています。
賠償額の予定とは、実際の損害額を一つひとつ証明しなくても、決めておいた額を支払うという取り決めです。違約金の条項がある場合、その額が精算の基準になると考えられます。条項の書き方によって扱いが変わることもあるため、金額が大きい場合は専門家に確認すると安心です。
法人の契約には消費者契約法が適用されない
消費者契約法9条1項1号は、契約の解除に伴う違約金などのうち、平均的な損害の額を超える部分を無効としています。ただし、この規定が対象にしているのは「消費者契約」です。
同法2条は、消費者を「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く)」と定め、法人は事業者に含まれるとしています。法人がオフィスを借りる契約は、事業者どうしの契約にあたるため、9条の上限ルールは適用されません。個人事業主が事業のために借りる場合も、同じく消費者には含まれません。
違約金の定めが一部無効とされた裁判例もある
事業用の賃貸借でも、違約金の定めが過大だとして、その一部が無効とされた裁判例もあります。ただし、判断は契約の内容や経緯など個別の事情によって分かれます。
違約金の額に疑問がある場合でも、自社だけで「支払わなくてよい」と判断するのは避けたほうが安全です。契約書と経緯の資料をそろえて、弁護士などの専門家に相談してください。
貸主から途中解約されることはある?
定期借家は、期間満了で契約が終わることを前提にした契約です。期間の途中で貸主から解約できるかは、借主の場合と同じく、契約書に貸主側の解約条項があるかが出発点になります。条項がある場合の効力は、専門家に確認することをおすすめします。
正当事由は借主の途中解約の要件ではない
「正当事由」は、借地借家法28条に定められた、貸主が更新を拒んだり解約を申し入れたりするときの要件です。建物を使う必要性や従前の経過、立ち退き料の申出などを考慮して判断されます。
この要件は貸主側に課されるもので、借主が途中解約するときに正当事由を示す必要はありません。借主の途中解約は、前述のとおり契約書の条項と貸主との合意によって決まります。
貸主側の解約条項がある場合は専門家に確認する
契約書に「貸主は〇か月前の予告で解約できる」といった条項が入っていることもあります。こうした条項の効力については、借地借家法の規定との関係で考え方が分かれる場面があります。
貸主から期間途中の解約や退去を求められた場合は、すぐに応じるかどうかを決める前に、契約書を持って弁護士などの専門家に相談してください。
普通借家の途中解約との違い
期間の定めがある普通借家でも、借主が途中解約できるかは、基本的に契約書の中途解約条項によって決まります。この点は定期借家と共通です。違いが出るのは、居住用の特例の有無と、期間満了時の扱いです。
| 項目 | 定期借家 | 普通借家(期間の定めあり) |
|---|---|---|
| 借主の途中解約 | 契約書の中途解約条項または貸主との合意による | 契約書の中途解約条項または貸主との合意による |
| 法律上の中途解約の特例 | 居住用・200㎡未満でやむを得ない事情がある場合のみ(38条7項)。オフィスは対象外 | 38条7項のような特例はない |
| 期間満了時の扱い | 更新されずに終了する(期間1年以上は貸主の終了通知が必要) | 更新拒絶の通知がなければ更新される。貸主の更新拒絶には正当事由が必要 |
退去を決めたらやること
途中解約の方向性が決まったら、退去日から逆算して準備を進めます。予告期間や原状回復工事の期間を見落とすと、賃料の支払いが重なる期間が長くなるおそれがあります。次の3つを並行して進めるとスムーズです。
- 原状回復の見積もり:契約書の原状回復の範囲と、工事業者の指定の有無を確認し、見積もりを取ります。工事期間を退去日までに確保する必要があるかも確認します。
- 移転先探し:新しいオフィスの契約開始日と現オフィスの退去日の関係を整理します。新しい物件の契約形態が定期借家か普通借家かも、契約前に確認しておくと安心です。
- スケジュールの逆算:解約通知の期限、貸主との協議、原状回復工事、引っ越しの日程を一つの表にまとめます。社内の稟議にかかる期間も含めて考えます。
よくある質問
定期借家の途中解約について、オフィスの担当者から寄せられやすい疑問をまとめました。個別の契約の判断は、契約書の内容によって変わる点にご注意ください。
オフィスの定期借家でも1か月前に申し入れれば解約できますか?
借地借家法38条7項の「申入れから1か月で終了する」ルールは、居住用で床面積200平方メートル未満の建物が対象です。オフィスには適用されないため、途中解約できるかは契約書の中途解約条項と貸主との合意によって決まります。
契約書に中途解約条項がない場合はどうすればよいですか?
貸主に期間途中での退去を相談し、合意解約の条件を話し合う方法があります。退去日や精算の方法、原状回復の範囲などは、合意書などの書面に残しておくと安心です。
途中解約の違約金は必ず払わないといけませんか?
契約書に違約金の定めがある場合は、その定めに沿って支払うことが前提になります。民法420条3項では、違約金は賠償額の予定と推定されます。額に疑問がある場合は、自社だけで判断せず、弁護士などの専門家に相談してください。
法人の契約でも消費者契約法で違約金が制限されますか?
消費者契約法の違約金のルールは、消費者と事業者の間の契約が対象です。法人は同法上の事業者にあたるため、法人がオフィスを借りる契約には9条の上限ルールは適用されません。
居抜きで次の入居者に引き継げば途中解約しやすくなりますか?
後継テナントの紹介や居抜きでの退去は、貸主との話し合いの材料になることがあります。ただし、民法612条により、賃借権の譲渡や転貸には貸主の承諾が必要です。内装を残すことも含め、必ず貸主の同意を得てから進めてください。
途中解約せずに、期間満了後も借り続けることはできますか?
定期借家は更新がない契約のため、期間満了後も借り続けるには、貸主と新しく契約を結ぶ再契約が必要です。再契約に応じるかどうかは貸主の判断になります。
まとめ
オフィスの定期借家には、居住用のような法律上の中途解約権がありません。途中解約できるかどうかは、契約書の中途解約条項と、貸主との合意によって決まります。
借地借家法38条7項の「1か月で終了する」ルールは、居住用・200平方メートル未満の建物が対象です。オフィスで退去を考えるときは、まず契約書の中途解約条項、予告期間、違約金、転貸、原状回復の定めを確認してください。
条項がない場合は、貸主との合意解約を検討します。後継テナントの紹介や居抜きでの退去は話し合いの材料になりえますが、貸主の承諾が前提です。違約金は民法420条により賠償額の予定と推定され、法人の契約には消費者契約法の上限ルールが適用されない点も押さえておきましょう。
本記事は一般的な情報提供であり、個別の契約については弁護士等にご相談ください。


