普通借家契約とは、借地借家法の更新ルールが適用される一般的な建物の賃貸借契約です。期間が満了しても、所定の期間内に更新しない旨の通知がなければ、同じ条件で更新されたものとみなされます(借地借家法26条)。
貸主が更新を断るには「正当の事由」が必要です(同法28条)。また、賃料が周辺の相場などと比べて不相当になったときは、貸主・借主のどちらからでも増額や減額を請求できます(同法32条)。
この記事では、オフィスを借りている法人の担当者に向けて、普通借家契約の更新の仕組み、正当事由、賃料の増減額請求のルールを条文に沿って整理します。更新時期を迎える前に確認しておきたいこともまとめました。
普通借家契約(普通建物賃貸借)とは

普通借家契約は、借地借家法の更新や解約のルールがそのまま適用される建物賃貸借です。「普通建物賃貸借契約」とも呼ばれ、定期借家契約ではない通常の賃貸借を指します。
借地借家法の更新ルールが適用される一般的な契約
普通借家契約という言葉は、借地借家法の条文に出てくる名称ではありません。同法38条の「定期建物賃貸借」と区別するために、実務で使われている呼び方です。
普通借家契約には、更新(26条)、貸主からの解約申入れ(27条)、正当事由(28条)、期間(29条)のルールが適用されます。これらの規定に反する特約で借主に不利なものは無効とされています(30条)。そのため、契約書に書かれていても、条文より借主に不利な更新の定めは効力が認められない場合があります。
これらの規定は、居住用か事業用かで区別していません。オフィスや店舗の賃貸借でも、定期借家契約や一時使用目的の賃貸借(40条)でなければ、同じルールの対象になります。
定期借家との違い
定期借家契約は、期間が満了すると更新されずに終了する契約です。主な違いを簡単に整理すると次のとおりです。
| 項目 | 普通借家契約 | 定期借家契約 |
|---|---|---|
| 契約の更新 | 通知がなければ更新されたものとみなされる | 更新はなく、期間満了で終了する |
| 貸主が更新を断る条件 | 正当の事由が必要 | 更新がないため、正当事由は問題にならない |
| 1年未満の契約 | 期間の定めがない契約とみなされる | 1年未満でも有効 |
| 契約の方法 | 口頭でも成立する | 書面(電磁的記録を含む)と事前説明が必要 |
普通借家契約の更新のルール
普通借家契約は、貸主・借主のどちらからも期限内に更新しない旨の通知がなければ、同じ条件で更新されたものとみなされます。更新後の契約は、期間の定めがない契約になります。
なお、更新料について借地借家法に定めはありません。支払うかどうかは契約書の定めによるため、更新時に請求されたときは、まず契約書を確認してください。
満了の1年前〜6か月前に通知がなければ更新される
借地借家法26条1項では、期間の定めがある建物賃貸借について、期間満了の1年前から6か月前までの間に通知がなければ、従前と同じ条件で更新したものとみなすと定めています。ここでいう通知は、「更新をしない旨の通知」または「条件を変更しなければ更新をしない旨の通知」です。
たとえば、満了日の5か月前になってから貸主が更新しないと伝えても、この期間の外であるため、条文上は26条1項の通知にあたりません。ただし、貸主が通知期間内に通知をした場合でも、正当事由がなければ更新を拒むことはできません(28条)。
なお、このように条文の定めによって更新される仕組みは、一般に「法定更新」と呼ばれます。「法定更新」は条文上の言葉ではなく、解説などで使われる呼び方です。
期間満了後も使い続けた場合
貸主が期限内に更新しない旨の通知をしていても、それだけで契約が終わるとは限りません。26条2項では、期間満了後に借主が建物の使用を続け、貸主が遅滞なく異議を述べなかったときも、更新したものとみなすとしています。
転貸(また貸し)をしている場合は、転借人の使用の継続を借主の使用の継続とみなして、この規定が適用されます(26条3項)。
更新後は期間の定めがない契約になる
26条1項のただし書により、条文の定めで更新された契約は「期間の定めがない」ものになります。それまで2年契約だったからといって、更新後も2年契約になるわけではありません。
期間の定めがない契約では、貸主はいつでも解約の申入れができますが、その場合も正当事由が必要です(28条)。契約の終了時期については、次の章で説明します。
実務では、期間満了前に貸主と借主が話し合い、新しい期間を定めた更新契約書を取り交わすこともあります。これは当事者の合意による更新で、条文によって更新される場合とは区別されます。
1年未満の契約は期間の定めがないものとみなされる
借地借家法29条1項では、期間を1年未満とする建物賃貸借は、期間の定めがない賃貸借とみなすと定めています。短期で借りるつもりで「6か月契約」としても、普通借家契約であれば期間の定めがない契約として扱われます。
また、29条2項により、賃貸借の存続期間を50年までとする民法604条は、建物の賃貸借には適用されません。
貸主が更新を断るには正当事由が必要
貸主が更新しない旨の通知をしたり、解約を申し入れたりするには、「正当の事由」があると認められる必要があります(借地借家法28条)。貸主の都合だけで、普通借家契約を終わらせることはできません。
正当事由の判断要素
28条は、正当事由があるかを判断するときに考慮する事情を挙げています。条文に挙がっている要素を整理すると次のとおりです。
| 判断要素 | 内容 |
|---|---|
| 建物の使用を必要とする事情 | 貸主と借主(転借人を含む)それぞれが、その建物を使う必要がどの程度あるか |
| 賃貸借に関する従前の経過 | 契約の経緯、賃料の支払い状況など、これまでの関係 |
| 建物の利用状況 | 借主が建物をどのように使っているか |
| 建物の現況 | 建物の老朽化の程度など、建物そのものの状態 |
| 財産上の給付の申出 | 明け渡しの条件として、または明け渡しと引き換えに、貸主が借主に金銭などを給付する申出 |
どの事情がどの程度重く見られるかは個別の事案ごとに判断されるため、自社の契約で正当事由が認められるかどうかは、弁護士などの専門家に確認してください。
貸主からの解約申入れは6か月で終了する
期間の定めがない契約で、貸主が解約を申し入れた場合、契約は申入れの日から6か月を経過すると終了します(借地借家法27条1項)。この場合も、28条の正当事由が必要です。
また、6か月が経過した後も借主が使用を続け、貸主が遅滞なく異議を述べなかったときは、更新したものとみなされます(27条2項による26条2項の準用)。
立ち退き料は判断要素の一つ
一般に「立ち退き料」と呼ばれるものは、28条の「財産上の給付」の申出にあたります。条文上は判断要素の一つとして挙げられており、立ち退き料を払えば必ず正当事由が認められるという定めにはなっていません。
貸主から立ち退き料の提示を受けた場合は、提示の内容だけで判断せず、移転にかかる費用や事業への影響も含めて検討することが大切です。
賃料の増額・減額請求のルール
普通借家契約では、賃料が不相当になったときに、貸主・借主のどちらからでも将来に向かって賃料の増額・減額を請求できます(借地借家法32条1項)。貸主から値上げを求められても、合意がなければ、すぐにその額を払う義務が生じるわけではありません。
増減額を請求できる条件
32条1項は、建物の賃料が次のような理由で不相当となったときに、増減額を請求できるとしています。
- 土地や建物にかかる租税その他の負担が増えた、または減った
- 土地や建物の価格の上昇・低下、その他の経済事情が変動した
- 近くにある同種の建物の賃料と比べて不相当になった
この請求は「契約の条件にかかわらず」できると定められています。ただし、請求できるのは将来の賃料についてで、過去にさかのぼって増減を求めるものではありません。請求に理由があるかどうかは、最終的には話し合いや裁判で判断されます。
話し合いがまとまらないときの支払いと精算
増額を請求されて話し合いがまとまらない場合、借主は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、自分が相当と認める額の賃料を払えば足ります(32条2項)。裁判で増額が確定し、払った額に不足があったときは、不足額に年1割の利息を付けて支払います。
反対に、借主が減額を請求して話し合いがまとまらない場合、貸主は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、自分が相当と認める額の賃料を請求できます(32条3項)。裁判で減額が確定し、受け取った額が正当な賃料を超えていたときは、超過額に年1割の利息を付けて返還します。
増額の請求に応じない場合でも、賃料をまったく払わないと契約上の不払いとみなされるおそれがあります。対応に迷うときは、早めに専門家へ相談してください。
一定期間増額しない特約は有効
32条1項のただし書では、一定の期間賃料を増額しない旨の特約がある場合は、その定めに従うとしています。契約書に「〇年間は賃料を増額しない」といった定めがあれば、その期間中は貸主からの増額請求は制限されます。
条文のただし書が定めているのは「増額しない」特約だけです。反対に「減額しない」とする特約が契約書にある場合の扱いは、このただし書には書かれていません。自社の契約にこうした特約があるときは、弁護士などの専門家に確認してください。
借主から途中で解約するには
借主から期間の途中で解約できるかは、まず契約書の中途解約条項(解約予告の期間や違約金の定め)に従って判断します。期間の定めがある契約で、途中解約の権利が留保されている場合について、民法618条は同法617条を準用すると定めています。民法617条1項では、期間の定めがない賃貸借は、建物の場合、解約申入れの日から3か月を経過すると終了するとしています。オフィスの契約書では、これとは別に予告期間が定められていることもあるため、自社の契約書の定めを確認してください。
なお、条文の定めで更新されて期間の定めがない契約になっている場合も、借主からの解約の扱いは契約書の定めとあわせて確認が必要です。退去を考え始めた段階で、解約予告の期間と原状回復の範囲を確認しておくと、移転のスケジュールを立てやすくなります。
定期借家への切り替えを提案されたら
更新のタイミングで、貸主から普通借家契約を定期借家契約に切り替えたいと提案されることがあります。定期借家契約になると、期間満了で契約が終わり、更新されなくなります。賃料改定の特約がある場合は、32条の増減額請求の規定が適用されなくなります(38条9項)。提案を受けたときは、契約期間や再契約の扱い、賃料改定の定めを確認し、必要に応じて専門家に相談したうえで判断してください。
更新時期に確認しておきたいこと
更新時期は、今のオフィスを続けて使うか、移転するかを考えるよい機会です。満了の1年前から6か月前は貸主からの通知期間にもあたるため、それより前に次の点を確認しておくと判断しやすくなります。
- 契約期間の満了日と、更新に関する契約書の定め(更新料の有無を含む)
- 中途解約の予告期間と、退去時の原状回復の範囲
- 現在の賃料と、周辺の同種の物件の募集賃料との差
- 人員の増減の見込みと、今の面積・レイアウトが合っているか
- 移転する場合の準備期間(物件探し、内装、原状回復の工事)
移転を考える場合は、原状回復の工事期間も含めてスケジュールを逆算することが大切です。また、今の物件にとどまる場合でも、賃料や面積を周辺の物件と比べておくと、貸主から条件の変更を提案されたときの判断材料になります。解約予告の期間によっては、更新時期より前に動き始める必要があります。
よくある質問
普通借家契約について、オフィスの担当者から寄せられることの多い疑問をまとめました。
貸主から「更新しない」と言われたら退去しないといけませんか?
普通借家契約では、貸主が更新を拒むには正当の事由が必要です(借地借家法28条)。通知を受けただけで、すぐに退去しなければならないとは限りません。正当事由があるかは個別の事情で判断されるため、弁護士などの専門家に相談してください。
更新契約書を交わさなかった場合、契約はどうなりますか?
期限内に更新しない旨の通知がなければ、従前と同じ条件で更新されたものとみなされます(26条1項)。この場合、更新後の契約は期間の定めがない契約になります。
貸主から賃料の値上げを求められたら応じないといけませんか?
合意しなければ、すぐに請求額を払う義務が生じるわけではありません。協議がまとまらない間は、増額を正当とする裁判が確定するまで、相当と認める額を払えば足ります(32条2項)。ただし、裁判で増額が確定すると、不足額に年1割の利息を付けて払う必要があります。
ビルのオーナーが変わったら、契約はどうなりますか?
借地借家法31条では、建物の賃貸借は、登記がなくても建物の引渡しがあれば、その後に建物を取得した人に対して効力を生じると定めています。オーナーが変わったことだけを理由に、今の契約が終わるわけではありません。
普通借家契約は書面で結ぶ必要がありますか?
借地借家法には、普通借家契約を書面で結ぶことを求める定めはありません。一方、定期借家契約は書面(電磁的記録を含む)による契約と事前説明の書面が必要です(38条)。後のトラブルを防ぐため、普通借家契約でも条件を書面で残しておくと安心です。
まとめ
普通借家契約は、借地借家法の更新ルールが適用される一般的な建物賃貸借です。オフィスの担当者が押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- 満了の1年前から6か月前までに通知がなければ、同じ条件で更新されたものとみなされる(26条)
- 条文の定めで更新された後は、期間の定めがない契約になる
- 貸主が更新を拒んだり解約を申し入れたりするには、正当の事由が必要(28条)
- 賃料が不相当になれば、貸主・借主のどちらからでも増減額を請求できる(32条)
- 一定期間増額しない特約があれば、その定めに従う
更新時期は、今のオフィスを続けるか移転するかを見直すきっかけになります。契約書の内容を確認したうえで、早めに準備を始めてください。
本記事は一般的な情報提供であり、個別の契約については弁護士等にご相談ください。


