定期借家契約とは、契約で決めた期間が満了すると更新されずに終わる建物の賃貸借です。借地借家法38条に定められていて、書面(電磁的記録でも可)での契約と、契約前の書面による説明が成立の条件です。期間満了後も同じ物件を借り続けたい場合は、更新ではなく貸主との再契約になります。
オフィスの募集条件に「定期借家」と書かれていると、普通の賃貸借と何が違うのか気になる方も多いでしょう。普通借家では更新が前提になりますが、定期借家では期間満了で契約が終わる点が大きく異なります。
この記事では、オフィスを借りる法人の担当者向けに、普通借家との違いを比較表で整理します。あわせて、38条の成立条件、2022年の改正による電子契約への対応、オフィスで結ぶときの注意点、再契約の流れ、契約前のチェックリストを紹介します。
定期借家契約(定期建物賃貸借)とは

定期借家契約は、期間の満了によって確定的に終了し、更新がない建物の賃貸借です。普通借家と同じく借地借家法が適用されますが、更新に関するルールが大きく異なります。
期間満了で終わり、更新がない契約
借地借家法38条1項は、期間の定めがある建物の賃貸借について、書面で契約する場合に限り「契約の更新がないこととする旨」を定められるとしています。この定めがある契約が定期借家契約です。
普通借家では、貸主が更新を断るには正当事由(建物を使う必要性などを総合的に考慮した、更新を拒むだけの理由)が必要です。定期借家ではこのしくみが働かず、期間が満了すれば契約は終わります。
この制度は、平成11年に成立した「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」により借地借家法が改正されて導入され、平成12年3月1日から施行されています。
正式名称と「定借」という略し方
借地借家法38条の見出しは「定期建物賃貸借」です。国土交通省の資料では「定期借家制度(定期建物賃貸借制度)」と表記されています。
実務では「定期借家契約」や、さらに縮めた「定借(ていしゃく)」と呼ばれることもあります。呼び方が違っても、指している契約は同じです。対になる従来型の契約は「普通借家契約」と呼ばれます。
普通借家との違いを比較表で確認
定期借家と普通借家の大きな違いは、更新があるかどうかと、契約の結び方です。ほかにも、1年未満の契約の扱いや賃料の増減請求など、オフィスの契約に関わる違いがあります。
| 項目 | 定期借家契約 | 普通借家契約 |
|---|---|---|
| 契約の方法 | 書面または電磁的記録で契約する(38条1項・2項)。契約前に、更新がない旨を書面で説明する必要がある(38条3項) | 借地借家法上、書面での契約は成立の条件とされていない |
| 更新 | 更新はなく、期間満了で終了する。続けて借りるには再契約が必要 | 期間満了の1年前から6か月前までに更新しない旨の通知がなければ、同じ条件で更新したものとみなされる(26条1項) |
| 貸主が契約を終わらせる条件 | 正当事由は不要。期間が1年以上なら、貸主は満了の1年前から6か月前までに終了通知をする(38条6項) | 更新拒絶や解約の申入れには正当事由が必要(28条) |
| 1年未満の契約 | 1年未満の期間でも有効(38条1項後段で29条1項を適用しない) | 期間の定めがない賃貸借とみなされる(29条1項) |
| 賃料の増減請求 | 賃料改定に関する特約があれば、32条の増減額請求の規定は適用されない(38条9項) | 経済事情の変動などで賃料が不相当になれば、増減額を請求できる。一定期間増額しない特約は有効(32条1項) |
| 借主からの中途解約 | 契約書の中途解約条項の定めによる。居住用の場合のみ、一定の条件で法律上の解約申入れが認められる(38条7項) | 期間の定めがある場合は、契約書の中途解約条項の定めを確認する |
| 契約の終了手続き | 期間1年以上の場合、貸主から終了通知が必要。通知が遅れた場合は、通知の日から6か月後に終了を主張できる(38条6項ただし書) | 更新拒絶の通知(26条1項)と正当事由が必要。期間の定めがない契約で貸主が解約を申し入れた場合は、6か月の経過で終了する(27条1項) |
表のとおり、定期借家は「期間が来たら終わる」ことを前提に、手続きの条件を厳しくした契約といえます。物件探しの段階で、募集条件に記載された契約形態を確認しておくと、入居後の計画を立てやすくなります。
定期借家契約が成立する条件
定期借家契約として有効になるには、借地借家法38条の手続きを満たす必要があります。手続きが欠けると、更新がない旨の定めが無効になり、普通借家と同じ扱いになる場合があります。
書面(電磁的記録でも可)で契約する
38条1項は「公正証書による等書面によって契約をするときに限り」更新がない旨を定められるとしています。公正証書(公証人が作成する文書)は例示であり、公正証書以外の書面でもかまいません。
また、同条2項により、契約内容を記録した電磁的記録で契約した場合も、書面で契約したものとみなされます。いわゆる電子契約でも、定期借家契約を結べるということです。
契約書とは別に事前説明の書面が必要
38条3項により、貸主は契約の前に、借主に対して「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを書面を交付して説明しなければなりません。国土交通省の資料でも、契約書等とは別に、あらかじめ書面を交付して説明する必要があると説明されています。
この説明がなかった場合、更新がない旨の定めは無効になります(38条5項)。契約書に「定期借家」と書かれていても、説明の手続きが欠けていれば定期借家として扱われない可能性がある点に注意が必要です。
期間1年以上なら終了通知が必要
期間が1年以上の定期借家では、貸主は満了の1年前から6か月前までの間(通知期間)に、契約が終了する旨を借主に通知しなければなりません(38条6項)。通知がなければ、貸主は契約の終了を借主に対抗(主張)できません。
ただし、通知期間を過ぎてから通知した場合でも、通知の日から6か月を経過した後は終了を主張できます。借主にとっては、終了通知が来た時期から退去や再契約の準備期間を確認できます。
2022年の改正で電子契約に対応
「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和3年法律第37号)により借地借家法38条が改正され、2022年5月18日から施行されています。この改正で、電磁的記録による契約(2項)と、事前説明書面の電磁的方法による提供(4項)が加わりました。
事前説明の書面を電磁的方法で提供するには、政令で定めるところにより、借主の承諾を得る必要があります。承諾を得て提供した場合は、書面を交付したものとみなされます。
2つの項が追加されたことで、改正前の項番号は後ろにずれています。解説記事や古い資料を読むときは、どちらの番号で書かれているかを確認すると混乱を防げます。
| 現行の項 | 改正前の項 | 内容 |
|---|---|---|
| 1項 | 1項 | 期間の定めがある建物賃貸借は、書面で契約する場合に限り、更新がない旨を定められる。29条1項(1年未満は期間の定めなしとみなす)は適用しない |
| 2項 | なし(2022年改正で新設) | 電磁的記録による契約は、書面による契約とみなす |
| 3項 | 2項 | 貸主は契約前に、更新がなく期間満了で終了することを書面を交付して説明しなければならない |
| 4項 | なし(2022年改正で新設) | 借主の承諾を得て、説明書面の内容を電磁的方法で提供できる |
| 5項 | 3項 | 事前説明をしなかった場合、更新がない旨の定めは無効 |
| 6項 | 4項 | 期間1年以上の場合、貸主は満了の1年前から6か月前までに終了通知が必要 |
| 7項 | 5項 | 居住用で床面積200㎡未満の場合、やむを得ない事情があれば借主は解約を申し入れられる(1か月で終了) |
| 8項 | 6項 | 6項・7項に反する特約で借主に不利なものは無効 |
| 9項 | 7項 | 賃料の改定に関する特約がある場合、32条(借賃増減請求権)は適用しない |
オフィスで定期借家を結ぶときの特徴
オフィスのような事業用の建物では、居住用とは異なる点がいくつかあります。特に、短期の契約、中途解約、賃料改定の3点は契約前に確認しておきたい項目です。
1年未満の契約も有効
普通借家では、1年未満の期間を定めても「期間の定めがない賃貸借」とみなされます(29条1項)。定期借家ではこの規定が適用されないため(38条1項後段)、数か月単位の契約も有効に結べます。
移転先の工事期間中の仮オフィスや、プロジェクト期間に合わせた拠点など、使う期間が決まっている場合に検討しやすい契約形態です。なお、期間が1年未満の場合は、38条6項の終了通知の規定は適用されません。
居住用の途中解約の特例は使えない
38条7項は、居住用の場合に、転勤や療養などやむを得ない事情があれば借主から解約を申し入れられる特例を定めています。対象は居住用で、床面積200㎡未満の建物に限られます。
オフィスなど事業用の定期借家にはこの特例が適用されないため、途中で解約できるかは契約書の中途解約条項などによります。契約前に、中途解約条項の有無とあわせて、解約の予告期間や違約金の定めも確認しておきましょう。
賃料改定特約があると増減額請求ができない
普通借家では、経済事情の変動などで賃料が不相当になったとき、当事者は増額や減額を請求できます(32条)。定期借家で賃料の改定に関する特約がある場合、この32条は適用されません(38条9項)。
32条には増額と減額の両方が含まれるため、特約の内容によっては、借主から減額を請求できない場合があります。たとえば「期間中は賃料を改定しない」「◯年ごとに◯%改定する」といった定めがあるかを確認しておきましょう。
借りる側から見たメリット・デメリット
定期借家が借主にとって不利かどうかは、オフィスの使い方と契約内容によって変わります。期間が決まっている使い方なら検討しやすく、長く使い続けたい場合は退去や再契約のリスクを考えておく必要があります。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 契約の終了時期がはっきりしていて、移転や拠点計画を立てやすい | 期間満了で契約が終わり、続けて使えるかは貸主との再契約次第になる |
| 1年未満の短期でも契約できる | 貸主が契約を終わらせるのに正当事由がいらない |
| 賃料改定特約の内容によっては、期間中の賃料の見通しを立てやすい | 賃料改定特約があると、借主から減額を請求できない場合がある |
| 終了通知の時期が法律で決まっているため、退去準備の目安になる | 中途解約の可否が契約書の定めに左右される |
「定期借家はやめたほうがいい」と一律にいえるものではありません。自社の利用予定期間と契約期間が合っているか、満了後の選択肢を確保できるかで判断するのが現実的です。判断に迷う場合は、契約前に弁護士などの専門家に契約書を確認してもらうと安心です。
期間満了後も借り続けたいときは再契約
定期借家には更新がないため、期間満了後も同じオフィスを使いたい場合は、貸主と新たに契約を結ぶ「再契約」が必要です。再契約に応じるかどうかは貸主の判断になり、法律上、借主が再契約を求める権利は定められていません。
再契約は新しい契約になる
再契約は、前の契約を延長するものではなく、新しい賃貸借契約です。賃料や期間、特約などの条件は、あらためて貸主と取り決めることになります。
再契約を定期借家で結ぶ場合は、書面での契約や事前説明の書面など、38条の手続きを再度踏む必要があります。前回と同じ条件になるとは限らないため、早めに貸主の意向を確認しておくと準備を進めやすくなります。
再契約で確認したい条件
再契約の話し合いでは、次の点を確認しておきましょう。
- 新しい契約期間と、契約形態(定期借家か普通借家か)
- 賃料・共益費の金額と、賃料改定特約の有無
- 敷金(保証金)の扱いと、再契約にあたって必要な費用の有無
- 原状回復の範囲と、前の契約から引き継ぐ内容
- 中途解約条項の内容
終了通知を受け取ってから満了までの期間は、最短で6か月です。再契約が難しい場合に備えて、移転先の情報収集を並行して進めておくと、交渉の結果に左右されにくくなります。
契約前のチェックリスト
定期借家の物件を申し込む前に、契約書と事前説明の書面で確認したい項目をまとめました。気になる点があれば、契約前に貸主や仲介会社に確認し、必要に応じて専門家に相談しましょう。
| 確認項目 | 確認する理由 |
|---|---|
| 事前説明の書面 | 契約書とは別に、更新がなく期間満了で終了する旨を書面で説明されているか。説明がないと更新しない定めが無効になる(38条5項) |
| 契約期間 | 自社の利用予定期間と合っているか。1年未満の場合は終了通知の規定が適用されない |
| 終了通知の時期 | 期間1年以上なら、満了の1年前から6か月前までに通知が来る。移転準備のスケジュールに関わる |
| 再契約の記載 | 再契約についてどのように書かれているか。再契約は貸主との合意が前提で、条件が変わる可能性がある |
| 賃料改定特約 | 特約があると32条の増減額請求ができなくなる(38条9項)。改定の方法と時期を確認する |
| 中途解約条項 | 事業用の定期借家には法律上の中途解約の特例がないため、契約書に途中で解約できる定めがあるかを確認する |
| 原状回復の範囲 | 期間満了で必ず退去する前提になるため、退去時に戻す範囲と費用負担を確認しておく |
普通借家から定期借家への切り替え
オフィスなど事業用の建物では、合意のうえで普通借家契約を終了させ、新たに定期借家契約を結ぶことが認められています。一方、居住用の場合は、制度施行前に結ばれた契約からの切り替えに制限があります。
居住用の場合は切り替えに制限がある
定期借家制度を導入した法律の附則3条は、平成12年3月1日より前に結ばれた居住用の建物賃貸借を合意で終了させ、同じ建物を目的に新たに賃貸借をする場合、当分の間、定期借家の規定を適用しないと定めています。
国土交通省の資料でも、居住用の場合は、当事者双方が合意しても定期借家契約への切り替えは認められていないと説明されています。
事業用は合意のうえで切り替えられる
附則3条の対象は居住用の建物に限られています。国土交通省の資料では、事業用建物については、事業者が契約内容を適切に判断することが期待されることから、従来の契約を合意のうえ解除して新たに定期借家契約を結ぶことは認められている、と説明されています。
切り替えは借主の合意が前提で、新しい定期借家契約にも38条の手続きが必要です。切り替えると更新や正当事由のルールが働かなくなるため、提案を受けた場合は、条件の変化を確認したうえで判断しましょう。
よくある質問
定期借家契約について、オフィスを借りる担当者からよく挙がる疑問をまとめました。個別の契約についての判断は、契約書の内容によって変わる点にご注意ください。
定期借家契約は公正証書で結ばなければいけませんか?
公正証書でなくてもかまいません。38条1項の「公正証書による等書面」は書面の例示で、通常の書面や電磁的記録による契約でも定期借家契約を結べます。
定期借家の契約期間に上限や下限はありますか?
1年未満の期間も有効で、29条1項は適用されません(38条1項後段)。また、建物の賃貸借には民法604条の存続期間の上限が適用されないため(29条2項)、借地借家法上の上限もありません。
貸主から終了通知が届かなかった場合はどうなりますか?
期間1年以上の定期借家で、通知期間内に終了通知がなければ、貸主は期間満了による終了を借主に主張できません(38条6項)。ただし、通知期間後に通知があれば、その日から6か月を経過した後は終了を主張できるとされています。
契約書に「定期借家」と書いてあれば定期借家になりますか?
契約書の記載だけでは足りません。契約前に、更新がなく期間満了で終了する旨を書面で説明する手続きが必要で、説明がなければ更新しない定めは無効になります(38条5項)。
オフィスの定期借家は途中で解約できますか?
事業用の定期借家には、居住用の場合のような法律上の解約申入れの特例(38条7項)がありません。途中で解約できるかは、契約書の中途解約条項や貸主との合意によります。
まとめ
定期借家契約は、期間満了で更新されずに終わる建物賃貸借です。書面または電磁的記録での契約と、契約前の書面による説明が成立の条件で、期間1年以上なら貸主からの終了通知も必要です。
- 普通借家と違い、更新がなく、貸主が契約を終わらせるのに正当事由がいらない
- 2022年5月18日施行の改正で、電子契約と説明書面の電磁的提供に対応した
- オフィスでは1年未満の契約も有効だが、居住用の途中解約の特例は使えない
- 賃料改定特約があると、借主から減額を請求できない場合がある
- 満了後も借り続けるには再契約が必要で、条件は貸主との取り決めになる
定期借家の物件を検討するときは、契約期間と自社の利用予定を照らし合わせ、事前説明の書面や特約の内容を確認してから申し込みましょう。
本記事は一般的な情報提供であり、個別の契約については弁護士等にご相談ください。


